ぼつぼつ仕事の依頼はありましたが、月々の受注は安定しません。
当然、収入にも波があり苦しい生活が続きました。
普通の会社なら「預貯金」「運転資金借入」でカバー出来るのですが、給料を支払うだけの「預貯金」は無く、若干の売り掛けがあっても他に担保物件が無いのと、銀行にはまだ信用度が0%なので「運転資金」など借りられません。
そのような時は「5回戦勝負のジャンケン」で給料の一部を争います。
負ければ質屋通いです。
このような時期、待ちに待ったN社からの入金約束期日がきました。
しかし、何故か払ってくれません。
電話での催促、直接出向いての催促を何度も繰り返しましたが、やり掛けの仕事と、次の仕事が絡んで何だかんだと言って払ってくれません。
その後、約2ヵ月間で120万円ぐらい貯まってしまいました。
このお金が入らないばっかりに、給料は払えず、撮影委託先からは逆に督促される始末、ほとほと困り果てました。
我が社の名付け親でもあり私が尊敬しているK翁に相談しましたら、翌日ガッチリとした体格の、見るからにヤクザ風のお兄さんが「K先生の紹介で参りました」と言って部屋に入ってきました。
前日K翁から話しは聴いていましたが、この姿を見た我々は緊張して、「よろしくお願いします」というのが精一杯でした。
「早速仕事をしましょう」「ハイ」
「儂を社員にして下さい」「ハイ」
「今迄の請求額をメモして下さい」「ハイ」
「領収書も用意して下さい」「ハイ」
「取り立て金は折半でいいね」「ハイ」
「儂と一緒に先方へ行きましょう」「ハイ」
話しは2〜3分もかからず、道中は無言のまま先方へ出向きました。
N社のドアを開けると、社員がキョトンとした顔でこちらを見つめています。
私はお兄さんの後に隠れるように寄り添って入りました。
小声で「社長は何処?」
「ハイ、正面に座っている人です」
すたすたっと社長のテーブルへ行き、今度はドスの効いたやや大きな声で、
「菁映社に入社した○○です。どうぞよろしく!」
「早速だが120万○○円の請求分、払ってくれますね」
「??? 今、手元に現金がないので・・・・・・」
「現金でなくても小切手は書けるでしょう?」
「裏ばんはいらんです」
「ハー ???」一銭も値切らず小切手を書きました。
「確かに受け取りました。ありがとうございます」
私もうしろからペコンとお辞儀をして退散です。
指定銀行へ行き現金に換金。カウンターで金勘定して半分の60万円を確認。
内ポケットへ裸のまま差し込み、「ごくろうさん。儂はここで失礼する!」
「ありがとうございました」の挨拶を交わし、あっけなく別れました。
2ヵ月も掛って取れなかった売上金をこんな短時間で解決してしまったことに感謝する半面、日が経つにつれ60万円の代償が惜しまれ、何とも言えない複雑な気持が続きました。
その後、別のプロダクションから「宇宙から地球の内部」までを撮ってくれないか?という注文があり、製作方法も考えず仕事欲しさに二つ返事で承諾してしまいました。
考えた末、B2の画用紙2枚、ビーカー1つ、アルコールランプ1つ、食紅少々、小麦粉少々、五徳1つを買い求めました。
1枚の画用紙には地球の細密画を3日間掛けて画きました。
もう1枚は表裏真っ黒に塗り潰しました。
材料が整ったところで撮影テストの開始です。
アニメーション台のセンターにアルコールランプと五徳を置き、「水」と「小麦粉」と「食紅」をビーカーに入れ、塩梅良く混ぜ合わせ五徳に乗せます。
その周りを真っ黒に塗り潰した画用紙を円錐形に丸め、頂点を丸くカットして穴を開け、丁度メガフォンのようにしてからそっと五徳に被せます。
全く照明を使わないので撮影室は真っ暗です。
準備が整ったところで、カメラテストです。
アルコールランプに着火。
暫くして、カメラを上下にスライドさせながらルーペを覗くと見事!真っ暗闇にイメージ通りのマグマがグジュグジュ動いて見えます。
「ヤッタゾ!」の声に全員集まり、我先にルーペを覗きます。
「ヤッター!」「ヤッター!」「良いじゃないか!」の連発です。
確信が持てたところで、一気に本番に入りました。
数時間掛けて撮影終了。
撮影済みを現像所へ持ち込み、翌々日、発注先のプロダクションでラッシュ試写。出来具合が大変良く、即OKの返事をもらいました。
そのまま納品の運びとなり、「ところでいくらだい?」
材料費、フイルム費、現像費、プリント費と多めに見積もっても3000円ぐらいしか掛っていません。
「2〜3万円貰えばいいかな?」と思っている矢先、
「20万でどうだ!」と言われ、ただびっくりして「エー!」と答えてしまったのです。
そうしたら「30万で手を打てよ!」と言われ、どうしていいやら解らず黙って頷くと、直ぐ小切手を切ってくれました。
若干震える手で名刺に仮りの領収を書を、挨拶もそこそこに外へ出ました。
小切手を入れた内ポケットを押え、何故か駅まで走っていました。
この時の状況はまるで落語の「火焔太鼓」そのものです。
損することも得することもあり、この商売がだんだん止められなくなりました。
次回へつづく
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